「水曜の朝、午前三時」書評と心に響いた名言

 

水曜の朝、午前三時 (河出文庫 は 23-1)

水曜の朝、午前三時 (河出文庫 は 23-1)

  • 作者:蓮見圭一
  • 発売日: 2017/11/03
  • メディア: 文庫
 

 


あらすじ

末期のガンで亡くなった翻訳家で詩人の四条直美が、娘のために残した4本のテープの内容を軸に話が進んでいく。そこに語られていたのは、大阪万博のホステスとして働く当時23歳の直美と、外交官としての将来を期待されている理想の恋人・白井礼との熱い恋物語だった。

時代やすれ違いが二人を傷つける、しかしその反動でより一層お互いを想う気持ちは強くなっていくが…

 

読んだ感想

 

恋愛モノを好まない私だが十分に楽しむことができた。

主人公の四条直美の意思の強さにはとてもかなわないなと思った。まだ女性の身分が今よりも低く、男性が意思決定をするのが当たり前の時代にあれだけ自分のやりたいことを主張できるのって凄すぎる。でも、そんな自分を直美は誇らしくもあり、憎たらしくもあるのがセリフや心情から読み取れる。はっきりと意見を言い過ぎて相手を夫を傷つけたり、自身と性格が似ている同僚に嫌悪感を抱いたり等、彼女は自分自身に苛立ちを見せている。彼女のそんな部分に私は共感や親しみを覚えることができたので、最後まで置いてけぼりにされることなく読了することができた。

 

この小説の一番の魅力は、二人の恋物語の行方ではなくて、人生の教訓や指針となるような一節が非常に多い点だ。

それは、死期の近い直美が自身の貴重な経験となった白井との恋愛を通して、生きる上での重要なメッセージを娘に伝えるという形式だからである。

だから、この小説が多くの人に支持され続けているのだなと感じた。

 

心に響いた名言集

 

「これでお終いだ、もうどうにもならない。私自身、何度そう考えたかもしれません。でも、運命というのは私たちが考えているよりもずっと気まぐれなのです。昨日の怒りや苦しみが、明日には何事にも代え難い喜びに変わっているかもしれないし、事実、人生はそうしたことの繰り返しなのです」

 

*娘の葉子が母である直美の雑誌に書かれていたセリフで特に好きなもの

 

「理想を持つことは大切だけれど、実際には理想主義者の隣人ほどはた迷惑なものはないのです」

 

*患者からの評判はよいが、同僚からは疎まれている担当医についての直美のセリフ

 

「忘れてならないのは、たとえ小さかろうともその世界が彼らにとってはそこが世界の全てだということです。何があってもここで生きていこう。そう決めた人たちを笑い者にした私は、やはり了見が狭かったのです。」

 

*上役の顔色ばかり窺っていた者を軽蔑していたが、後にそれは間違いだと感じた際のセリフ

 

「人生は選択して決意した瞬間に飛躍する」

 

*直美の好きな哲学者キルケゴールの一節

 

「その人が言ったことをそんなに気にしなければいけないほど、お前はその人のことを重視しているのか」

 

*悲しい出来事があった成美が、兄である白井に相談した際の白井のセリフ

 

確かに重要な話なのかもしれません。でも、いつだってそうではありませんか。いつもいつも重要な話ばかりではありませんか。そうではなくて、たまには普通の話をしませんか」

 

*記者である夫が巷で話題になっている話ばかりするので、それにうんざりして直美が放ったセリフ。

 

「人生は宝探しなのです。嫌でも歩き出さなければならないのだし、それなら宝探しと割り切った方が楽しいに決まっているではないですか。旅の途中には多くの困難があるでしょう。世の中には好きになれない人間、同意できない人間でいっぱいです。中には嫉妬や憎悪、悪意など、あらゆるマイナスの感情を持って、あなたの冒険を邪魔しにかかる人間もいるでしょう。私の前にも、そんな人たちが何人も現れました。そのたびに、私は彼らを恨んだり憎んだりしたものだけれど、いまでは、感謝さえしています。皮肉でいうのではなく、ああした人たちがいなければ、せっかくの宝探しもひどく味気のないものになっていたと思うから。迷ったときは急がずに立ち止まりなさい。慌てたって、いいことは一つもありはしないのです。物事を理性的に、順序立てて考えるのは悪いことではないし、勉強や読書は常にあなたの助けになってくれるでしょう。でも、これだけは忘れないように。何にもまして重要なのは内心の訴えなのです。あなたは何をしたいのか。何になりたいのか。どういう人間として、どんな人生を送りたいのか。それは一時的な気の迷いなのか。それともやむにやまれぬ本能の訴えなのか。耳を澄まして、じっと自分の声を聞くことです。歩き出すのはそれからでも遅くはないのだから」

 

*直美が娘のために遺したテープの一番最後のメッセージ。

 

以上が「水曜の朝、午前三時」を読んでみて、特に心に響いた名言集でした。

 

水曜の朝、午前三時 (河出文庫 は 23-1)

水曜の朝、午前三時 (河出文庫 は 23-1)

  • 作者:蓮見圭一
  • 発売日: 2017/11/03
  • メディア: 文庫